介護のための口腔ケア

口腔ケアは、生活援助としてのケアであるばかりではなく、誤嚥性肺炎の予防や栄養状態の維持など全身的健康の維持・増進にも直結します。しかし、多忙な介護・看護現場ではなかなか実践できなかったり、実践できたとしても負担になってしまうことがあるのではないでしょうか。そこで、紹介する口腔ケアシステム（①～④）が有効です。このシステムは、簡易で有効な口腔ケアを普及させるために、誰にでもできるようにシステム化した手法として開発されたものです。確かな評価方法によりその有効性が確認されています。標準化・システム化することで、要介護者に対し簡単かつ確実な口腔ケアを提供できると同時に、看護師や介護者の負担を軽減することが可能です。

口腔ケアの分類

口腔ケアは大きく分けて専門的口腔ケアとシステム化した口腔ケア（普及型口腔ケア）に分類されると考えています。従来より、要介護高齢者の口腔ケアは口腔の専門である歯科医師もしくは歯科衛生士が、口腔内を診査したうえで各個人に適したオーダーメイドの口腔ケアを行うことが望ましいと考えられてきました。

システム化した口腔ケアとは、専門的口腔ケアに対する懸念であり、自分で口腔清掃が困難な要介護高齢者に対して、一般の介護者が行う簡単かつ、安全で効果的な標準化された口腔ケア法と定義づけることができます。施設、在宅介護現場あるいは看護現場の口腔ケアを、歯科医師、歯科衛生士のみで行うことは、人員的にもコストの面からも不可能です。しかし、看護師・介護者の時間的制約、他人の歯を清掃することの心理的障壁、技術的困難さ、要介護高齢者の協力が得られないこと、および口腔保健の知識の欠如により、介護者・看護師が口腔ケアを適切に行うことは困難です。口腔ケアシステムは、そのような現状を改善すべく開発されたものです。

口腔ケアシステム

①口腔ケアスポンジ：1分

口腔粘膜、歯ぐきのバイオフィルムを破壊し、細菌を遊離させる

②舌ブラシ：30秒

舌苔を除去し、細菌を遊離させる

③電動歯ブラシ：2.5分

歯面のバイオフィルムを破壊し、細菌を遊離させる

④うがい：1分

最後に、うがいで遊離した細菌を口腔外に排出する

手順

要介護高齢者に、座位にて1日1回の口腔ケアを1回5分間で行います。

1：うがい薬を浸漬した口腔ケア用スポンジで口腔粘膜を清掃する（1分）

口の中の粘膜に付着した食物残渣や歯垢の除去を行います。口腔粘膜清掃は柔らかいスポンジで作成されている口腔ケアスポンジを用いて拭き取ります。口腔ケアスポンジは方向性を気にせず楽に使えて、粘膜を傷つける危険性が低いという長所があります。粘膜上で回転させながら使用すると、より有効な口腔清掃を行うことができます。

2：軟毛歯ブラシで舌の奥から手前へ10回軽く擦り、舌苔を擦りとる（30秒）

要介護高齢者では舌苔を認めることが多く、これが細菌の温床となっています。また、口臭の原因物質は、この舌苔から発生することが多いといわれています。そのため、舌の清掃も怠ってはいけません。軟毛歯ブラシや舌ブラシを用いて、舌を傷つけないように行いましょう。

3：電動歯ブラシにて歯面清掃。粘膜も必要に応じて清掃する（2.5分）

歯面の清掃では、単に食物残渣を除去するのではなく、細菌の塊である歯垢を除去することが大切です。歯垢を完全に取り除くには、歯ブラシによる機械的清掃が一番効果的です。自分の歯をブラッシングすることに比べると、他人の歯をブラッシングすることのほうが難しいため、手用歯ブラシよりもむしろ、口腔内で自動に動く電動歯ブラシをおススメします。ただ、はじめて電動歯ブラシを使うときは、要介護高齢者が、その振動に不快感を訴えることがありますが、心配はなくすぐ慣れることを伝えましょう。

4：うがい薬による洗口（1分）

電動歯ブラシなどで口腔内にはがれ落ちた細菌を排出するためにも、うがいが不可欠なので、十分ぶくぶくうがいをするようにしてください。

歯科医師・歯科衛生士は、日々の口腔ケアシステムをフォローアップすること、口腔ケアシステムを適用できない重症の要介護高齢者へのより専門性の高い口腔ケア、摂食・嚥下リハビリテーション等を行います。歯科医師、歯科衛生士以外の他職種が行う口腔ケアが普及すると、必ず困難な点や問題点が出てきますので、その場合、看護師や介護職のみなさんは、口腔ケアシステムを行いながら、ぜひ一度歯科医師、歯科衛生士とコンタクトをとるようにしてみてください。