昭和と違う!?う蝕の病因!!①
う蝕の病因論は、昔に比べて変わってきていることが明らかになりました。
う蝕原因菌はミュータンス連鎖球菌だけではなく種類は非常に多い
昭和の常識では、う蝕原因菌は不溶性グルカンを作って、エナメル質表面にへばりつくミュータンス連鎖球菌だけとされていました。また、非常に強い酸を出すラクトバチラスもう蝕原因菌であると、20世紀初頭から引き続き主張されていました。
最強のう蝕原因菌は、昭和と同じくミュータンス連鎖球菌とラクトバチラスですが、この2つの菌種ほど強い酸を出さない菌種も、う蝕原因菌のリストに加えられました。新規のう蝕原因菌は不溶性グルカンを作る能力は低いものの、プラークの中、初期う蝕病変、不良充填物辺縁、そして開口状態となっている象牙細管に定着することによりう蝕を発生させます。また、表1以外の菌種もう蝕に関与していると考えられており、う蝕は複数の菌種からなるう蝕関連細菌叢が作ると考えられ始めています。
表1う蝕原因菌
昭和
ミュータンス連鎖球菌、ラクトバチラス属
令和
ミュータンス連鎖球菌、ラクトバチラス属、ビフィドバクテリア属(ビフィズス菌)、スカルドビア菌、アクチノマイセス属、ベイヨネラ属、アトポビウム属
※菌種の集合体を属と呼ぶ。菌種名は属(名字)と種(名前)でできている。Streptcoccusmutansを例にとると、Streptococcusが属名、mutansが種名である。表中の属で示されている細菌は、その属の中にう蝕の原因となる菌種が複数存在することを示している。

歯肉縁上にはう蝕原因菌が、歯肉縁下には歯周病原性菌が住む
昭和の時代に行われたプラーク細菌叢の解析は細菌培養法でしたが、実際には培養できない細菌腫のほうがはるかに多い状況でした。特に、歯肉縁下には空気中では培養できない嫌気性菌(酸素を嫌う菌)が多く生息していたため、歯肉縁上と縁下の細菌叢の違いについてよくわかっていませんでした。今では、プラーク細菌のDNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)の塩基配列をすばやく判別する画期的な細菌検査法の登場により、プラーク細菌叢の解析が一気に進みました。その結果、歯肉縁上と縁下では性質の異なる細菌種が生息していることがわかりました。
歯肉縁上プラーク
歯肉縁上プラーク細菌は酸素があっても平気で、酸性環境を好むので、自ら酸を出す菌種が多い(だからう蝕が起こる)。
好物は糖質。
①う蝕を起こす
②好気性or通性嫌気性菌、酸を出す
③酸性環境
④発酵性糖質を摂取
歯肉縁下プラーク
歯肉縁下プラーク細菌は酸素があると増殖できない菌種が多く、弱アルカリ性を好むため酸は出さない。
好物はタンパク質の肉食系(糖質は食べない)。
①歯周病を起こす
②嫌気性菌、炎症を起こす
③アルカリ性環境
④アミノ酸(タンパク質分解物)を摂取

★う蝕の原因は砂糖(ショ糖)だけでなく、発酵性糖質
昭和の常識はう蝕の原因が砂糖(ショ糖)と考えられていましたが、今はう蝕原因菌は発酵性糖質(ショ糖、ブドウ糖、果糖、調理でんぷん)を摂取して、酸を産生します。エナメル質う蝕の誘発能は、ショ糖>ブドウ糖、果糖>調理でんぷん、の順でショ糖がもっとも高いです。
一方、根面う蝕の誘発能には、これほどの差はありません。
※調理でんぷんとは熱と水分を加えて調理したでんぷんのこと
う蝕原因菌に対して抗菌物質を出したり、酸を中和したりする善玉菌がいる
昭和の細菌培養法は感度が低かったので、プラーク細菌種の解析が不十分でした。そのため、悪玉菌を攻撃する善玉菌の存在は知られておらず、善玉菌の攻撃方法も不明でした。今では、歯肉縁上プラークにはう蝕原因菌(酸産生菌)を攻撃する抗生物質(過酸化水素、バクテリオシン)を産生する善玉菌や、アンモニアを出して酸を中和する善玉菌がいます。
1このような善玉菌が多いプラークはう蝕を起こしにくいと言えます。
