噛むことの大切さ!!②
咀嚼は、人間が生まれてから死ぬまでにみられる発達と減退の過程においても変化します。たとえば、加齢により口腔機能が衰退すると、徐々に咀嚼は困難となり、特に硬いものや繊維質なもの、弾力のあるものが食べづらく、品数が限定されると食事の楽しみも半減します。また、咀嚼力が低下した高齢者は、食事中に十分な食塊形成ができないままがんばって嚥下しようとするため、誤嚥や窒息に陥るリスクが高まることが危惧されます。さらに、咀嚼ができなくなり、食べにくい食品のある者は、循環器系疾患による死亡率が1.8倍、呼吸器系疾患による死亡率が1.9倍に上がると報告されています。
嚥下の前段階である咀嚼がうまくできなければ、嚥下もしづらいのです。したがって、咀嚼の目的は「嚥下しやすい食塊を作る」ことであるとも言われています。ここからは、噛むことに興味・関心を示し、咀嚼と健康の関係を認識して有意義な食生活を送ってもらうため、噛むことの効用について考えてみましょう。
効用①唾液の分泌を促進する
〇唾液には食塊形成を補助する役割がある
食事中に食物をよく噛み、唾液が分泌されると、唾液中の水分、ムチン、α-アミラーゼのはたらきによって咀嚼しやすくなると言えます。特に、口腔乾燥している人では、その効果を実感しやすいようです。よく噛んで食塊形成を意識することは大切です。
〇唾液は食物の消化をサポートし、胃の負担を軽減してくれる
唾液は胃での消化作用に優れた役割を果たしていることがわかります。咀嚼することによって唾液が分泌されると、胃の負担も軽減されます。
〇唾液の味覚を敏感にするはたらきによっておいしさが増す
高齢者の味覚の原因は未だ不明な点が多いですが、研究より、高齢者では、唾液の流動性の変化とムチンの機能喪失は、口腔粘膜の防御機能を低下させて味覚の喪失を招く可能性があることが示唆されました。高齢者の唾液は、若齢者の唾液に比べて粘弾性が低下し、口腔粘膜に付着しにくいことがわかり、また、高齢者の唾液は、若齢者の唾液よりも苦味受容体の活性化を促進しない(高齢者は苦みを感じにくい)。
効用②脳を脳を活性化する
〇咀嚼で記憶力や集中力・判断力が高まる
咀嚼が脳の広範な領域を活性化する可能性が示唆されている。
〇咀嚼は学習効果に影響する
咀嚼回数の減少により、空間学習障害を引き起こす可能性が示唆されました。逆に、よく噛むようにすれば、空間学習障害が回復する可能性もあります。
〇咀嚼は認知症高齢者のQOLを改善する
改良された口腔ケアの提供と一貫性のある食事管理の継続によって、認知症高齢者の咀嚼活動性が増し、QOLの向上につながることがわかりました。
効用③生活習慣病を予防する
〇良く噛んで食べると、食後の血糖値の上昇を抑制できる
糖尿病の素因がなければ、咀嚼によって食後の急激な血糖値の上昇が抑制されることがわかりました。
〇咀嚼回数は高齢者の食欲を調整する
咀嚼回数が多いと食後の満腹感や満足度が得られやすい。
効用④誤嚥性肺炎を予防する
〇嚥下直前の食塊形態は誤嚥性肺炎の発症に関連する
食塊形成能が低い高齢者は、嚥下に異常がないようにみえても誤嚥性肺炎の発症率が高いことがあきらかとなりました。そして、今後、嚥下だけでなく、定期的に高齢者の咀嚼を評価し、適切な食形態の選択や食事介助を行うことができれば、誤嚥性肺炎の低減に期待できると考えられます。
〇咀嚼回数と嚥下直前の食塊は嚥下に影響する
咽頭での食塊が嚥下閾値に達するためには、たとえ咀嚼回数が少なく、食物が十分に粉砕または混合されていなくても、凝集している必要があることが示唆されました。凝集はもっとも大切ですが、そのうえでよく噛むことによる粉砕、混合がされていれば、なおよいということです。

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